2011年3月22日火曜日

翻訳で失われるもの

翻訳版を読むことのメリット

(1) 効率的
(2) 知らない言語で書かれたものも読めるようになる

原書を読むことのメリット

(1) 翻訳によって失われるものまで読み取れる
(2) より多くのコンテンツにアクセスできる

以上の理由から適度に翻訳版と原書を交えながら読書をしているのだが、翻訳版を読んでいるとやっぱり翻訳で失われるものが多いことをいつも残念に思う。これはある程度翻訳家の実力にも関係がある問題だが、小説をまるごと別の言語に変えるときに膨大な量の語感、文体、文化的表現を全て生かすことはまず無理なので、翻訳で原作の世界を再現することには限界がある。それに、翻訳することで読みづらくないようにスムーズに仕上げることも翻訳のスキルとして大事にされており、原文が持つ意味を保存することよりも、読者の可読性を大事にするため、ある程度原書の雰囲気を害することがあっても翻訳版の読みやすさを優先する場合が多い。

たとえば、『星を継ぐもの』というタイトル。原題は『Inherit the stars』である。

一つ目に失われているのはInherit the stars. 複数の星ということが伝わっていない。「星」とはどこの星を言っているんだろう、と考えながら読んだけど、結局元々のタイトルは物語りに出てくる星たちすべてを指している。日本語訳だと、星がひとつしかなくその星を継ぐイメージだが、オリジナルだと複数の星があってそれらを継ぐことで立体的な関係が描かれるところまで想像できるのだ。この違いは大きい。

二つ目に失われているのは緊迫感。英語のタイトルがInherit the stars、と「星を継げ」あるいは「星を継ぐ」という感じ。なんだかの指令のような緊張感も感じるのだが、日本語のタイトルでは「継ぐもの」と訳すことで、客観視してしまっている。また、英語だと星を継ぐ行為(動詞)に焦点があてたれているが、日本語だと星を継ぐもの(名詞)が強調されていて、誰が星を継ぐか?に重点が置かれているように感じる。

たったの3 wordの翻訳にもこんなに失われるものが多い。小説をまるごと翻訳するとなるととんでもない量の情報が失われたり変形されるはず。個人的には可読性を少し犠牲にしてももっと直訳に近い翻訳をして、訳者注をたくさんつけるスタイルの翻訳もあって良いと思う。

---
このブログは本ブログです。
海外文学についてよく書きます。
参考になったらぜひぽちっとお願いします。

2 件のコメント:

  1. 汗(はん)2012年7月4日 20:23

    すぐいじける女の子さん、こんにちは。汗(はん)と申します。
     『星を継ぐもの』の翻訳で気になるところがあったので調べていたら、こちらにたどり着きました。気になっていたことはわからずじまいですが、タイトルは「星を継げ」だったんですね。
     そちらの足元にはおよびませんが、私も時々小説や映画の英語について考えて書くことがありますので、すぐいじける女の子さんの記事、興味ぶかいです。ぼちぼち読ませていただきます。
     なお、「翻訳で失われるもの」の記事に、うちの7月2日の記事からリンクを張りました。事後ながら報告いたします。よろしくお願いします。

    >http://han-nikki.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/post-85be.html
    >http://homepage1.nifty.com/beHungry/index.html(の「不定期日記」)

    返信削除
    返信
    1. こんにちは、すぐいじける女の子です。とても遅くなりましたが、コメントも関連記事もありがとうございます。こうやって同じことに興味を持った方に訪問していただいて、ご意見いただいたりすることは大変うれしいことです。

      『星を継ぐもの』についてのこの記事を書いたごろは、色んな分野の和訳に対して、本当に不満たらたらでした。私は特にドラマが好きなので、好んで見るのですが、あまりにもひどい和訳にうんざりしていたのです。でも今は自分で映像翻訳の勉強などやってみたり、趣味で翻訳してみたりして、翻訳というのはとても難しいことということがよくわかりましたし、英語の知識がほとんどない読者のこともちゃんと考えながらできるだけ正しい翻訳をすることは至難の技というのがわかったので、前ほどバシバシ翻訳のダメだしはやらなくなりました。

      色んな人をターゲットとした出版物や映像であればある程度原文が犠牲になってしまうことは仕方ないことだと思いますが、もっと元の意味のことや、その意味に絡んだ背景のことを知りたい人々のために(正しく汗さんのような方々のためです)、自分のブログでだけ細々頑張ってみようと思ってます。

      これからもぜひ遊びにいらして、なにかあればコメントください。汗さんのブログも本や映画の話など興味深い記事が多いので、読ませていただきたいと思います。よろしくお願いします。

      削除